■吉野紗帆 Saho Yoshino
平成11年生まれ。6歳でキックボクシングを始める。平成28年プロデビュー。令和4年S1女子世界バンタム級王座を獲得するなど、これまで4本のベルトを獲得。令和5年4月さわやか市民賞受賞。超攻撃的な右ファイター。リングネームは☆SAHO☆。闘神塾所属。趣味はスイーツの食べ歩き。
■夢追い掴んだトップランカー
今や格闘技は女子選手が大活躍する時代です。今月のキラリびとは、女子キックボクサーの吉野紗帆さんです。6歳で競技を始め、高校3年生の時に日本王座を獲得。そして、夢を実現させるために、すべての楽しみを犠牲にして掴んだ世界王者。勝利への熱い思いとこれからの夢について語ってもらいました。
市川町に、吉野さんが所属するキックボクシングジム『闘とうしんじゅく神塾』があります。小学生から大人まで30人が汗を流しています。中に入ると、リング脇に吊るされたサンドバッグを叩く音が響き、リングの上では複数の大人の選手たちが細かいステップを踏みながら、スパーリングパートナーへパンチを打ち込んでいました。程なくすると、ゴングが鳴り響きハイレベルな攻防が終わりました。
「お疲れ様です」。さっきまでとは打って変わった表情で、少し息を切らした吉野さんが笑顔で迎えてくれました。
▽武器は強心臓
3つ年上の姉の影響で始めたキックボクシング。当時の拠点は泉中学校の武道場でした。男性に混じって練習し、顔面や足に打撃を食らうが「痛いけど怖さは全くなかった」と振り返りました。
基本があってこその応用。ミット打ちや膝蹴りなど地道な基礎練習を反復し、自分の体に落とし込んでいきました。入塾して半年後、早くも試合が組まれるも見事勝利。「相手のパンチは全部見えた」と笑顔で回想しました。
毎日5kmのロードワーク、ジムで約3時間のトレーニングを欠かさず積み重ねてきました。小・中学時代は対戦相手が見つからず、「大きな舞台に立ちたい」と思うように。その夢は何時しか目標となり、高校進学を機にプロへと転向しました。
▽プロの世界へ
高校に進学すると、支援してくれる家族やスポンサーの方々の期待に応えるよう、更に練習に打ち込みます。そして高校2年の4月、プロライセンスを取得。ジムが戦歴などのプロフィールを各団体に送り、7月にデビュー戦が決まりました。
試合は、長いリーチを生かしてジャブでけん制、隙をついて膝蹴りをたたき込むなど判定で初勝利をあげました。「嬉しかったですね。同時にファイトマネーの重みも知った」とプロになった実感を話しました。
▽悲願の王座獲得
徐々に大舞台で活躍するようになります。2018年、高校3年生の時にミネルヴァ日本王座を獲得。卒業後はスポーツ系専門学校へ進学し、次なるベルトであるwМC日本王座を獲得。「獲れるうちは全て獲る」との強い気持ちで、さらに翌年、S‐1日本王座も獲得しました。
リングで強くなればなるほど、各地の大会に出向く遠征費用がかさみ、経済的な負担も増しました。ファイトマネーだけでは到底生活できないのでアルバイトを2つ掛け持ち生計を立てました。その中から今まで支援してくれた家族への感謝の気持ちとして毎月実家にお金を入れていたそうです。
迎えた2022年、いよいよ世界タイトルマッチに挑戦します。この日はジャブと得意のストレートが冴え、ポイントを手繰り寄せます。また、地元からの大声援も後押しし見事判定勝利。自身の名前が読み上げられた瞬間、普段はクールな吉野さんですが、顔をくしゃくしゃにして大きなガッツポーズで喜びを爆発させました。「世界奪取のうれしさと皆さんに恩返しができたことが一番」と声を弾ませ教えてくれました。
▽もっとビックに
S‐1世界タイトルを獲ったことで名前は全国区に。ジム初の世界王者誕生ということもあり、親やジム仲間からは祝福され、また、市からはさわやか市民賞を贈呈されました。「市から表彰されたことは栄誉なこと。でも何か恐縮しますね」とはにかみました。
主要団体を総なめするべく、「最終目標はK‐1とwBCを制すること」と話します。世界王者といえども働きながら練習に励んでおり、試合が決まれば今でもチケットを手売りしています。「女子キックボクシングはまだまだ認知されていない。活躍してメディアに出れるような選手になってキックボクシングの地位を上げていきたい」と今後の野望を告白しました。
▽加西に恩返しを
加西の話になれば自然と声も弾みます。「ここで育ててもらった恩がある。子どもから大人まで幅広く楽しめるフィットネスジムを加西で設立すること」と将来の夢を語りました。
今月9日にはK‐1世界大会に出場。この試合に勝てば王者への挑戦権が得られる大事な試合です。「絶対に勝ちたい。その勢いで次のwBCのベルトも必ず獲ります」と並々ならぬ表情で決意を語りました。
試合に勝ち続けることによって加西を盛り上げることにも繋がる。周囲の大きな期待を背負い、世界の強豪を倒すべく、吉野さんは今日もリングに立ち続けます。